うつ病の動物モデルへの疑問
・「人にもある病気の殆どは人以外の動物にもあるだろう」という考え方から、実験動物にうつ病を作るという試みがなされてきた。
・実験動物(ラットやマウス)に行動ストレスを与えたり、薬物を投与し、抗うつ剤などの医薬品の影響を観察するモデル。いくつかのモデルがあるが、SSRIの添付文書に採用されているものには以下の実験モデルがある。
@強制水泳試験=forced swim test: 逃避不可能な水槽内にマウスやラットを投じると、はじめは逃れようと激しくもがくが、やがて逃げ出すことを諦めて無動状態になる。抗うつ剤を投与することで、この持続時間が特異的に短縮することを利用した評価法。
1970年代に考案された。「絶望を感じないマウス、ラットはさらに長い間、泳ぐ」というのが理論的根拠。
A運動制限試験=tail-suspension test:下記論文が最初の論文と考えられるが、agitation つまり「もがき」の後のimmobility 無動状態を"behavioral despair"つまり「行動に関する絶望」、これをうつ病と見なす。以下がこの方法を初めて報告した論文の抄録。
The tail suspension test: a new method for screening antidepressants in mice. Steru L, Chermat R, Thierry B, Simon P. Psychopharmacology. 1985;85(3):367-70.
A novel test procedure for antidepressants was designed in which a mouse is suspended by the tail from a lever, the movements of the animal being recorded. The total duration of the test (6 min) can be divided into periods of agitation and immobility. Several psychotropic drugs were studied: amphetamine, amitriptyline, atropine, desipramine, mianserin, nomifensine and viloxazine. Antidepressant drugs decrease the duration of immobility, as do psychostimulants and atropine. If coupled with measurement of locomotor activity in different conditions, the test can separate the locomotor stimulant doses from antidepressant doses. Diazepam increases the duration of immobility. The main advantages of this procedure are the use of a simple, objective test situation, the concordance of the results with the validated "behavioral despair" test from Porsolt and the sensitivity to a wide range of drug doses.
Bレセルピンなどのうつ状態を来す薬剤を実験動物に投与し、動物の行動に対する抗うつ剤の影響を観察するモデル。
・@やAの実験モデルには批判がある。特に、無動時間までの「もがき時間の長さ」が、動物の「耐久性」を反映しているのではないかと考えられ、人のうつ病のモデルとしては不適当であるという批判である。(ニンニクを食べさせて、もがき時間が長くなったので、ニンニクが運動能力、特に耐久性をもたらした、というような実験であれば分かるのですが・・・)