はじめに

 一内科診療所で毎日の診療を開始して、最初に感じたことは、アルコールを飲む 患者さんが多いことでした。粗暴でもなく、一生懸命に仕事をしている中年男性の患者さんの 指が震えていたり、γ-GTPの値が極端に高いことがあるのです。それらの患者さんがアルコール依存症 とは見えなかったのですが、やがて「ネクタイアル中」という現代に多いアルコール依存症で あることに気づき、勉強をはじめました。断酒会を知り、患者さんと一緒に参加するようになり、今では診療所の2階で 断酒会を開いています。断酒する患者さんが次々と出るようになり、やりがいを感じるようになったものの、次の問題に突き当たりました。

 それは断酒している患者さんの多くが、他の診療所から処方される睡眠薬、抗不安薬、抗うつ剤の服用 を始め、止められなくなることでした。のんでいたアルコールが向精神薬に対象を変えただけに なってしまうのです。このような「処方薬依存症」と呼ばれる新たな依存症が増えているのです。初めはアルコール依存症の患者さんに特に 多い現象だったものが、次第にアルコールを飲まない若い人々、特に若い女性に見られる ことが多くなりました。

 就職して都会に出て、アルコールと睡眠薬、抗不安薬、抗うつ剤の3点、4点セットを飲み続け、思考力を失い、仕事を止めて仙台に帰ってきた若い女性を診察したことがあります。←「症例02」

 断酒することが如何に難しいか、しかし断酒をなし得れば、如何によいことが多いかは知っているつもりです。日本の大衆はテレビコマーシャルでアルコールの猛烈な宣伝を浴びています。また製薬会社や学会のボスからの情報だけの影響を受けた医師は安易に向精神薬を処方し、一方、患者さんに は警戒心がありません。この状況は変える必要があります。しかし患者さんにはそれぞれの主治医がおり、主治医から処方される医薬品を警戒せよという訳ですから、やりにくい問題であることは承知の上です。このホームページを読んで下さる方々の適切な判断を期待して、つたない小さな試みを続けるつもりです。